研究概要 |
本研究は,人体内部と人体外部の間の医療支援のためのインプラントBAN(Body Area Network)に適する通信方式の解明及び最適化を目的としている.昨年度では,IEEE802.15.6で候補として挙げられたMICS(Medical Implant Communication Services)帯とUWB(Ultra Wideband)帯を対象に,チャンネルモデルの構築を行った.本年度では,昨年度の成果に踏まえ,通信方式の検討及び送受信機の試作を行った.まず,MICS帯においては,代表的な狭帯域変調方式に対するBER(Bit Error Rate)特性をシャドウイングフェージング環境下で求め,受信ダイバーシチ構成によるBER特性の向上法を示した.次に,UWB帯においては,1ビットを7チップで情報ビットを拡散し,チップの"1"と"0"をUWBパルスの有無に対応させるOOK(On-Off Keying)変調方式と,包絡線検波を基本とした復調方式の組み合わせを,回路構成の容易さと通信特性の確保の観点から,計算機シミュレーションにより見出した.また,本インパルスラジオUWB(IR-UWB)方式を用いたときのBER特性をシャドウイングフェージング環境下で求め,受信ダイバーシチによるBERの改善効果も明らかにした.これらの検討を基に,高信頼性,低消費電力,簡単構成を軸に,IR-UWB方式を取り上げ,UWBローバンドで動作するインプラントBAN用送受信機を試作した.評価実験の結果,10Mbpsの伝送速度,60dBの人体内外間の伝搬損が対応できる性能が得られた.さらに,人体胴体部を筋肉の電気特性を有する液体ファントムで模擬し,本試作送受信機を用いて,体内から体表への伝送実験を行った.その結果,体内8cmの深さまで内外間通信ができることが確認できた.これらの成果は,2010年の医療通信関連の国際会議での講演に招待され,また査読有一流学術論文誌にも2編の論文として掲載されている.
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