本研究の目的は画像の補間に適した多次元全域通過・可変非整数遅延(VFD)フィルタの最適設計である。全域通過VFDフィルタは再帰形フィルタであるため、その安定性の保証が不可欠である。また、VFDフィルタリングの計算量を減らすため、全域通過VFDフィルタの低複雑度構造の開発も重要である。 平成22年度の研究では、画像の高精度補間に適した全域通過・可変非整数遅延(VFD)フィルタの重み付き最小自乗設計法(WLS設計法)を提案し、設計例を用いてその有効性を実証した。この設計法は従来のような全域通過VFDフィルタの周波数応答の自乗誤差を最小化するのではなく、著者が新たに提案して周波数応答誤差とVFD誤差(群遅延誤差)の複合誤差を最小化するものである。つまり、最小化誤差の中に2種類の誤差(周波数応答誤差とVFD誤差)が入り混じっている。VFD誤差を付加することによって、従来の設計法で抑えられなかったVFDの誤差を低減させることができ、高精度の全域通過VFDフィルタの実現が可能となる。2種類の誤差は相対重み係数というパラメータによって関係付けられるため、この相対重み係数を調整すれば、一方の誤差を極端に抑えることができる。面白いことに、この相対重み係数を適当に選べば、2種類の誤差を同時に抑えることができる。著者は設計例を用いて従来の設計法より提案した複合誤差に基づく新しい設計法の有効性を確認した。また、全域通過VFDフィルタの計算量を減らすため、フィルタの次数の最適化手法を提案した。この次数最適化法を用いれば、低複雑度の全域通過VFDフィルタの設計が可能となった。以上の結果をまとめた論文はIEEE Trans.CAS-I : Regular Paperに採録され、近いうちに掲載される予定である。
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