fNIRS(functional Near Infrared Spectroscopy)を用いてヒト脳活動を非侵襲でモニタするためには、ヒト脳光パルス伝搬理論を構築する必要がある。今年度は、筆者等が定式化したヒト頭部の光パルス伝搬解析が可能なFDTD(Finite Difference Time Domain)法を、実用上重要な3次元解析に拡張するための基盤となる以下の成果を収めた。 1.新境界条件の導出・・光拡散方程式を解くための散乱体-非散乱体境界における従来の条件式は、波源を境界Yee格子に組み込むことが出来ない。このため、境界Yee格子に波源が配置されると、波源を内部Yee格子に組み込むため、サイズの小さなYee格子で散乱体を離散化せざるを得なかった。本研究ではこの欠点を克服して、FDTD解析の時間短縮を図るため、境界Yee格子に波源の組み込みが可能な新たな境界条件を導出した。この新境界条件を用いたFDTD法による均一散乱体の光パワー及び光パルス振幅は解析解と3%以内の精度で一致し、新境界条件の妥当性を検証した。 2.新境界条件のヒト頭部光伝搬解析への応用・・解析領域内に脳髄液のような非散乱体と散乱体の境界を含むヒト頭部のFDTD解析に新境界条件を適用した。その結果、Yee格子サイズを従来の上限である0.5から1mmに拡大しても解析精度は劣化せず、後方散乱光パワーと光パルス平均遅延時間解析結果は、ロンドン大学のモンテカルロ法による計算及び実測値と良く一致し、本解析法の妥当性を検証した。また、Yee格子サイズの拡大により、解析時間を約1/60に短縮可能となり、本研究の目的であるFDTD法によるヒト頭部3次元光パルス伝搬解析を実現するために不可欠な基盤を構築した。
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