fNIRS(functional Near Infrared Spectroscopy)を用いてヒト脳活動を非侵襲でモニタするためには、ヒト脳光パルス伝搬理論を構築する必要がある。本研究がスタートした2009年度は光散乱体表面における新たな境界条件を導出し、これを筆者等が定式化したヒト頭部光パルス伝搬解析を行うFDTD(Finite Difference Time Domain)法に適用した。これにより、Yee格子サイズ(Δz)上限を1mmに拡張可能となり、解析時間を1/10以下に短縮した。当該年度である2010年度は実用上不可欠な3次元解析を実現するために以下の研究を行った。 1.ヒト頭部3次元光パルス伝搬解析時間の短縮 100×100×40(mm^3)の3次元散乱体の解析時間を5時間から80秒程度に短縮可能とする以下の成果を得た。 (1)FDTD解析におけるグリッド分散の抑圧 Nonstandard FDTD法の時・空間微分演算子を尺度として、差分化誤差の大きい光拡散初期過程ではΔzを1mmとし、それ以降の時間帯ではΔzを2mmに拡大するグリッド分散抑圧法を検討した。その結果、全タイムスロットの1/4以上をΔz=1mmで解析すると数値解析精度の劣化が避けられ、計算時間を約1/3に短縮可能なことを明確にした。 (2)ヒト頭部3次元光パルス伝搬解析 ヒト頭部解析における脳髄液を介した頭蓋骨と灰白質の光結合解析において、9個のYee格子の放射発散度の平均値を用いて視野角を9個統合することにより、解析時間を1/9程度に短縮可能とした。 2.ヒト頭部のYee格子による効率的な離散化法の基本検討 灰白質が頭表面と垂直に4及び14mmの矩形的な厚み変化が有る場合について、白質との境界面の離散化誤差と後方散乱光パルス波形変化の関係を検討し、許容される離散化誤差の基礎データを得た。
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