低浸透圧処理により得た溶血赤血球懸濁液が低周波誘電分散(α-分散)を示すことを確認し、膜に形成された穴の修復とα-分散の誘電緩和パラメーターとの関係を調べた。その結果、理論計算から予測されたように、膜に形成された穴がα-分散を引き起こしていることが明らかになった。 溶血赤血球のα-分散の分極機構は今まで不明であったが、これは、低周波での測定が困難であったことによる。今回のα-分散の観測の成功は、測定セルのデザインを検討することによって、低周波側の観測領域を一桁広げることができたことによる。測定の障害となる電極分極の影響を消すことは出来ないので、電極界面の電気容量を大きくし、また測定系全体の電気抵抗を上げることにより、電極分極の影響を低周波側にシフトさせる工夫を行った。 溶血した赤血球膜に開いた穴は低温の低イオン強度溶液中では閉じることはないが、37度Cの生理的塩類溶液中で穴が修復される。穴が開いている溶血赤血球ではα-分散が観測されたが、穴が修復された溶血赤血球ではα-分散が消失することが明らかになった。また、グルタールアルデヒドで膜を固定すると、穴が修復する条件下でも、α-分散が観測された。この結果は、理論計算で示唆されたように、膜に開いた穴がα-分散を引き起こしていることを示している。従って、誘電分光法によるα-分散の測定から、穴のサイズや穴の修復過程をモニターできることになる。
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