研究概要 |
極値統計解析で不可欠な概念である再現期間は,将来に来襲するであろう巨大外力の予測のために,現在から近い将来までの時間として,土木工学をはじめとする応用分野では用いられてきた.しかしながら,過去の観測記録にもとづいて推測される超過確率(もしくは,生起率)の逆数が,再現期間の定義であり,過去,現在,未来へと経過する時間軸上で定義されるものではない.本年度の研究は,応用する上で必要となる将来に生起すると予想される極値の検討をするためには,現在から将来への経過時間と再現期間を区別して取り扱えるような理論の枠組み(超過確率に対する外挿と時間の延伸に対する外挿;それら2種類の外挿を取り扱う理論)を提示するものである. 観測結果に定常モデルを適用して得られる情報が,過去から将来への時間の経過とともに低下していく(データの鮮度が低下する)ことを定量化した.このように定常モデルの経験度に,経過時間に伴う影響を加えたものを,耐久性(モデルの耐久性)と名づけ,経験度と同様に,その値が2未満となる場合の推定を保留する.耐久性を用いれば,推定結果を将来に向けて延伸する場合に,徐々に増大していく信頼区間を容易に与えることができるだけでなく,推定結果の将来への延伸が打ち切られることも表現できる.耐久性へと拡張する際に,定常の経験度に付与される時間変数を含む項を回折項と名づけ,耐久性により得られる信頼区間の幅が広がる様子を推定誤差の回折効果とよぶ.土木工学などの応用分野で,将来に来襲するであろう巨大外力の予測として,極値統計解析を用いて,再現期間に対する再現レベルの推定を行う際には,経験度を拡張して,経過時間に伴う推定誤差の回折効果も考慮することが重要であると言える.
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