研究概要 |
本研究では,河川の水量・水質に関する野外調査と分布型モデルを利用した水・物質流出解析を実施して,果樹栽培が盛んな流域における水環境を評価した.対象は紀の川流域である.平成23年度には主に以下のことを行った. 1.樹園地内の物質収支に基づいた栄養塩類の原単位算出 物質収支に基づいて既存情報から果樹園における栄養塩類の原単位を算出する方法を検討した。その結果,算出された原単位を負荷量解析や河川水質解析に利用できることがわかった.加えて,今回の方法は施肥量に応じた原単位を算出できるため,施肥量管理による栄養塩類流出抑制といった対策効果の検討も容易になることが示された. 2.窒素負荷特性・河川水質特性 支川の柘榴川流域におけるTN負荷特性および河川水質特性を検討した.ここでは上記1)の方法で果樹園のTN原単位を月単位で算出したことにより,河川水中TN濃度を月単位で概ね再現できた.また,流域の3分の1を果樹園が占める柘榴川流域では,河川へのTN流達負荷量が降水量や施肥量の多い秋から春に多くなり,河川水質も流達負荷量と同じように変動することが示された.このような水質変化の傾向は野外調査でも得られており,柘榴川のTN濃度変化は,果樹園からの肥料流出によって引き起こされている可能性が高いことが示唆された. 3.リン負荷特性・河川水質特性 紀の川中流部において1996年から2001年の間にTP濃度が大きく上昇した要因を検討した.その結果,1996年から1999年の4年間に産業系TP負荷量が大幅に増加していたこと,2000年以降は産業系出荷額の減少および第5次水質総量規制の導入により流域からの負荷量が少なくなったことが示された.さらに,河川水質解析により,紀の川中流域のTP濃度は流域からのTP負荷量および河川流量の影響を受けて変動しやすいことが示唆された. 4.総合評価 果樹栽培が盛んな紀の川流域の栄養塩類濃度特性を明らかにするとともに,流域の栄養塩類濃度管理に利用可能な解析モデルを構築できた.
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