平成22年度においては、新聞記事、W.ベックマンの日本旅行記、その他関係資料の調査を行った。主な成果を以下にまとめる。 (1)新聞記事の調査:昨年度調査した時事新報、讀費新聞に加えて、朝野新聞、郵便報知新聞、東京日日新聞、朝日新聞を対象とし、明治19年~20年の2年間の全記事を調査した。その結果、(1)議事堂の建設地に関しては、明治20年4月とされる閣議決定をはじめ、政府の公式発表に関する記事は無かった、(2)新聞は、日比谷の地質調査や土地の買上・引渡などの事実を通して、議事堂や諸官衙の計画を推測して報道していた、(3)ベックマンの調査・計画についての記事がほとんどない中、ベックマンの指示により市中の写真を撮るための足場が組まれたというニュースが、詳細な内容で幾つかの新聞で報道された、などの事実が明らかになった。 一方、新聞には、これまでの知見の確認という意味での意義ある記事は多いものの、新事実の発見には限界があることも分かってきた。一般雑誌についての追加調査も予定していたが、同様の限界が感じられたので、網羅的な調査は中止し、適宜、参考となる記事を見つけ調査する方針に変更した。 (2)ベックマンの日本旅行記の調査:既存研究による翻訳は抄訳であるため、本研究において、来日以降2週間程度の日記について全訳を行った。その結果、詳細は省くが、ベックマンの東京の地形に関する関心の強さや、実際に彼が行った調査の過程を知る幾つかの事実を知ることができた。 (3)その他関係資料の調査:第一に、閣議決定をはじめ、関連する政府発表の事実を知るために、明治19年~20年の政府官報について網羅的な調査を行った。しかし、特別に新たな知見を得ることはできなかった。第二に、議事堂建設に関する政府資料、当時の関係する学会誌等について、より詳細な調査を行う必要性を認識し、次年度に向けて、関係する種々の文献を入手、整理した。
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