研究課題
本研究は実際の歩道環境を車いすユーザが走行することによって生じる身体的負担について、エネルギー代謝を指標として定量化し、客観的エビデンスに基づいて歩道環境のバリアフリー度を評価する手法の構築を目的とする。今年度は、「先行研究調査と車いすユーザ・リハスタッフを対象としたヒアリング調査」、「携帯型酸素摂取量計測装置による健常者によるエネルギー代謝の基礎実験」を実施後、「健常者による車いす走行中のエネルギー代謝の計測と評価」を行った。研究結果は以下のとおりである。(1)車いすのタイヤ空気圧をパラメータにした実験より、適正な空気圧に対してタイヤの空気圧が大きく低下した場合には、心拍数は約10%以上上昇する。人の酸素摂取量より求めたエネルギー消費仕事率と車いす駆動仕事率のそれぞれの仕事率は、空気圧の低下により共に約50%を超える大幅な増加を示した。空気圧の低下が車いすの駆動抵抗を増大させ、空気圧が車いすユーザの身体的負担に大きな影響を及ぼすことが明らかとなった。従来から車いすを安全で楽に走行するために、タイヤの空気圧を適切に保つことの重要性が指摘されてきたが、今回の実験結果より客観的なデータの裏付けを得ることができた。(2)スロープ(8%)上りの心拍数の変化は車いす走行は歩行の約1.5倍であり、主観的運動強度(かなりきつい、限界である)と良い一致を示した。(3)スロープ上りでは車いす走行時の酸素摂取代謝指標(単位距離当たりの酸素摂取量)が平坦路走行の約5倍に達し、またスロープ歩行の約3倍に達することからスロープが及ぼす身体的負担が極めて大きいことが定量的に明らかとなった。勾配8%、距離120mは健常者のスロープ登坂の限界と思われる。(4)酸素摂取代謝指標は車いすユーザの身体的負担を定量的に評価可能と思われ、歩道のバリアフリーの客観的評価や、車いす訓練効果の評価等への応用が可能である。
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SICE Journal of Control, Measurement, and System Integration Vol.2, No.4
ページ: 199-205
Assistive Technology Research Series Vol.25
ページ: 455-460