研究課題
本研究は車いすユーザの身体的負担について、エネルギー代謝を指標として定量化し、客観的エビデンスに基づいて歩道環境のバリアフリー度を評価する手法の構築を目的とする。今年度は、道路の縦断・横断勾配の影響に関する実験と、歩道環境のバリアフリー対策として進められている「波打ち路面解消工事」の効果を検証するための車いす走行実験を行い、酸素摂取量代謝指標(以下OCIと略す)、心拍数、仕事量と仕事率を指標として車いすユーザの身体的負担を評価する試みを行った。研究結果は以下のとおりである。(1)OCIを身体的負荷の指標とした時、室内平坦路を1とした場合、実験用スロープにおける縦断勾配5%では1.5、8%では2.5、8%勾配の避難スロープは2.8、同じく8%勾配の道路スロープは3.8であり、道路の縦断勾配は車いすユーザに大きな身体的負担を強いていることが明らかになった。(2)ほぼ平坦な平均横断勾配0.4%の道路に比較すると、横断勾配2%の路面を走行する場合にはOCIが約1.3倍に増加する。室内平坦路のOCIを1とした場合、2%横断勾配は1.5の値となり、実験用スロープの縦断勾配5%の負荷と同等である。(3)波打ち路面走行時のOCIは波打ち解消工事後の約1.5倍であり、工事によりOCIの値が約2/3に低下し、身体的負担の軽減効果が明らかになった。負担の軽減は心拍数、車いすの駆動トルクから求められる仕事量と仕事率においても確認された。歩道環境のバリアフリー度を評価する指標として、心拍数は身体的負担を表す簡便な指標ではあるが評価指標としては限界がある。一方、道路の物理的抵抗を示す仕事量と仕事率は、身体の発揮できる運動耐用能と道路の負荷との関係を表す指標として有効である。OCIや仕事率は歩道のバリアフリー化の客観的な評価検証、負担の少ない経路選択、道路のユニバーサルデザイン等への応用が可能である。
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ASSISTIVE TECHNOLOGY RESEARCH SERIES, Vol.29, IOS Press
巻: Vol.29 ページ: 796-803