研究概要 |
今年度は,鉄筋コンクリート造建築物(RC造)生産の黎明期である1911(明治44)年に生産され,現在も工場として供用中であるRC造3棟(山陽小野田市太平洋セメント株式会社小野田工場敷地内の修繕工場・鋸切工場・製樽工場)を対象として,同工場内外において,当該建築物に関する設計者に関する資料・図面などの有無,構工法・構造・使用材料に関する建築技術および材料製造技術に関する歴史的資料の有無やその内容についての確認調査を行なった。 また,外観目視調査による構工法や劣化状況の把握,鉄筋探査機による配筋調査,レーザー距離計による当該建築物の寸法調査なども行なった。併せて,鋸切工場と製樽工場については,文化財の指定を前提とした場合には破壊行為となる壁体からのコア抜きについての考え方を整理し,採取計画を立案すると共に,その計画に基づいて海風による劣化外力が厳しいと推察される南側壁面からコア試験体を採取し,目視観察とともに壁厚と中性化深さとを測定し,竣工当時に使用されていたコンクリートに関する技術データを収集した。 併せて,黎明期に生産された国内のRC造建築物に関する資料調査を一部行い,地域別に一覧としてまとめた。 その結果,設計には笠井真三(当時同社社長)が深く関与しているようであること,当該建築物の鉄筋は当時一般的であった異型鉄筋ではなく丸鋼であること,しかも壁体はダブル配筋で屋根はシングル配筋であること,柱には約600x160mm(2尺x5分)の型枠が用いられていること,外壁には1~3層のモルタル塗り仕上げがなされており,現在のコンクリートと遜色のない圧縮強度であること,などが判った。ここで得られた成果は,RC造という新しい建築構工法の導入期において同建築構造物が実現していた耐久性を解する糸口になるととともに,建築生産技術の変遷および進歩の過程を明らかにする基礎的資料となるものである。
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