研究概要 |
本研究は,(1)蓄熱と調湿の機能を有する建材(相変化熱を利用して蓄熱し,優れた吸放湿特性も有する潜熱蓄熱・調湿材)の開発,(2)居住環境の実測および数値シミュレーションによる高機能建材の効果解析,(3)高機能建材を利用した設計ガイドラインの提案を行い,断熱気密性能を高めた乾式構法で,しかも恒温性・調湿性に優れる高機能パッシブ住宅の計画開発を目的としている。 平成22年度は,潜熱蓄熱剤(PCM)を充填したマイクロカプセルを無機質系の調湿基材に含有させたものと,オレフィンシートでPCMをサンドイッチして調湿基材の裏面に貼付したものの2種類を,潜熱蓄熱・調湿材として開発した。また,実験室実験と数値計算により,これらの潜熱蓄熱・調湿材による室内の恒温性・恒湿性について検討した。さらに,周囲環境の温湿度を周期的に変化させて模型箱内の温湿度変動を測定する温度応答法と湿度応答法を示し,空間全体の恒温性と恒湿性の評価方法について提案した。なお,数値計算に際しては,建築の熱と水分と空気の連成移動を非平衡熱力学に準拠した非線形現象として表現し,建物全体の温湿度変動を予測する数値シミュレーションソフトを開発している。 その結果,(1)潜熱蓄熱・調湿材は恒温性・恒湿性に優れ,吸放湿性能は単体の調湿材と同等かそれ以上であること,(2)潜熱蓄熱・調湿材を内装材に使用することで室内温湿度の日変動が緩慢になり,特に室内湿度は中湿域に集中すること,(3)暖房時でも室内湿度は40%以上に保たれ過乾燥を緩和する効果があること,(4)梅雨季でも室内湿度は70%以下に保たれ高湿化を抑制する効果があること,(5)室内の恒温性・恒湿性は躯体の断熱性能にも依存し,熱損失係数の小さい方が優れること,(6)潜熱蓄熱・調湿材を外気に接し熱の出入りが激しい部位に使用すると熱負荷を効果的に低減できること,(7)終日空調の場合はPCMの融点を空調設定温度と同じにすると期間冷暖房負荷を最も削減できること,(5)恒温性・恒湿性の向上には,内装材の温湿度特性(熱容量と水分容量)のみならず空間全体の性能改善が必要であること,などを明らかにした。
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