都市再開発においてアイデンティティの持続可能性における意味や役割についてスイスの事例と日本の事例を対照に調査を行った。スイス等欧州では古い建物の保全、暫定的利用(インビトウィーン・ユース)、オープンスペースなどが環境面での持続可能性と関連しながら地域アイデンティティの継承となり、他との差異化を生み、経済的な持続可能性につながるという点を明らかにした。この点を日本の事例においてアイデンティティの継承はどう持続可能性に寄与しうるか、という日本での文脈から検討しようとした。そこで国内の市街地再開発事業実施自治体の担当者に配票調査を行い、その結果、163件の回答を得て分析を行い、さらに現地調査も実施した。その結果、以下の点を把握した。敷地内のオープンスペースやランドスケープへの期待も高いという傾向をつかんだ。しかし、スイス等欧州に見るような古い建物の保全についての可能性に否定的な意見を得た。伝統的建物の少なさや、制度、耐震性等が問題として指摘されている。オープンスペースの工夫にそれら開発前の土地の記憶を継承する形のオブジェを配置する例が見られるが、長野県の飯田市のように蔵をオープンスペースに配置するというような部分的な形では可能である。規模として、再開発ビルの巨大さに比べて、小さい装飾的なものであるが、それでも利用を含めて地域のアイデンティティ形成に寄与している点は評価される。制度面からの困難さはあるもののこのようなオープンスペースとあわせた歴史的文脈からのランドスケープデザインにおける固有性はアイデンティティと持続可能性の統合された解決策となる可能性が示されている。また他のオープンスペースとのネットワーク等、敷地外の地域へ広げたエリアマネジメントによって、その活かされた方も決まってくる。
|