都市再開発においてアイデンティティの持続可能性における意味や役割についてスイスの事例と日本の事例をもとに検討してきた結果をとりまとめた。アイデンティティと持続可能性の概念の検討から「イメージアビリティ」、「場所のセンス」、「生きられた空間」を指標に、国内の事例の追跡調査とともに、海外の先進事例を収集し、分析を行なってきた。これまでの日本とスイスの事例では、日本のスクラップ&ビルドに対して、スイスの事例のように古い建物の再利用のコンバージョン、暫定利用(インビトウィーン・ユース)等の目に見える歴史的継続性がアイデンティティと持続可能性に貢献する点が明らかであった。しかしスェーデンのマルメ市の例のように古い港湾工業地の新規再開発において、100%再生可能エネルギーや資源循環、屋上緑化、魅力的なオープンスペース、建築デザインの隠喩的シンボル継承によってアイデンティティと持続可能性が強化する可能性が示された。いずれにおいてもオープンスペースにおいて緑や水等の自然と歩行路のネットワーク、滞留生やアクティビティにとっての質の向上等、都市の生活の質の向上に寄与し、またそれら空間の形成や活動を含めた官民協働のエリアマネジメントの重要性が認められる。これらの結果から、我が国の制度面においては、都市再開発法自体が高度経済成長時代の土地の価格上昇を前提にした制度であることからの根本の課題を抱え、また土地の権利調整、道路を中心としたインフラ整備に主眼がおかれて地域全体のビジョンや計画、周辺の事業所や居住者を含めた参加の過程が不十分であり、これら断絶が事業後の成果、地域の発展にとっての成果にも課題を抱える。構想、計画、実施、事業後の運営管理等の全体を一貫してマネジメントする体制も不十分である点も大きな課題である。都市の「縮小」時代の再開発の方向として、エリアマネジメントによるスロー・デベロップメントが可能な制度への転換が求められる。
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