本年はまず、犯罪発生地点の詳細データが得られた国内事例、すなわちY市計画住宅地について、パーミアビリティ指標と犯罪件数との関連を分析した。その結果、犯罪発生地点は、自動車によるアクセスが容易であるにもかかわらず、歩行者が少なく閑静であるため安心感のある地点、すなわち自動車にとってのパーミアビリティが高く歩行者のパーミアビリティが低い場所に分布していることがわかった。この住宅地では自転車も歩行者と類似した経路をたどるが、様々なカテゴリーの通行者のパーミアビリティを高めるためには、自転車の通行路の設定をするなどの余地があることが示唆された。 一方で、自転車の通行を統制する環境を整備した海外の都市について、その整備の実態および、整備と歩行者の安全・安心との関係についてインタビュー調査および現地の主要整備地点の視察を行った。 まず、自転車専用レーンの整備を推進し、同一道路内における歩自分離を推進しているデンマーク国コペンハーゲン市の市役所交通計画課自転車政策担当者に対して、コペンハーゲンにおける歩自分離のデザイン概要と計画プロセスおよび事後評価について調査した。その結果、段差を設けた専用レーンによってより明確な分離をはかった結果、自転車は自動車に次ぐスピードを出すことが可能になり、また歩行者の脅威にならなくなったことが指摘された。またコペンハーゲンの自転車政策の特徴として、自転車利用者に対するアンケート調査を毎年遂行し、整備の効果と利用者のニーズを統計的に判断する体制を整えたことが、環境整備の推進に一役買っている点が挙げられた。 またコペンハーゲン警察署交通課課長ならびに取り締まり担当者に対するインタビューを行った。その結果、歩自分離の進展と自転車のスピード向上によって、自転車と自動車の交差点における事故が最も大きな安全安心の問題となっており、歩行者と自転車の間に見られる「ひったくり」や「衝突事故」は問題にならないレベルであることがわかった。 さらに、自転車の貸し出し事業ヴェリブを積極的に推進し、通常の道路においても自転車の利用を推し進める政策をとっているフランスのパリ市で現地インタビューおよび視察を行った。貸し出し事業では登録者数は順調に増加しているのではあるが、自転車用レーンや駐輪施設の整備が遅れているため、ヴェリブの実際の利用者は限られており、自転車通行量が十分に伸びていない現状が利用者から示唆された。 海外事例のインタビュー結果は、自転車専用レーンの整備によって歩行者の安全・安心が変化しうることを示唆している。
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