研究は、まず過去の大地震における企業の業種や経営基盤、地震動の大きさなどに応じた物理的被害実態の把握だけでなく、これまでやられてこなかった経済的被害についても調査し、そのデータベース化を行った。次に建物・建物設備・生産設備に関する実用化のための簡易な被害予測手法を開発し、将来大地震の到来が予想される地域における企業の物理的及び経済的被害予測が可能となった。また、事業継続計画(以下BCP)の概念図に基づく企業の資産・負債・資本等から得られる経営判断指標を提案するとともに、さらに専門家でなくても視覚的に理解しやすい防災カルテと総合的な防災力を簡易に評価できる手法の高度化を図っている。一方、建物、各種設備の耐震化などのハード面とともに、地震動による人体への影響を踏まえた対策を強化させる必要があるため、地震動による高齢者人体への生理心理的影響を把握したうえで、揺れ体験の効果や高齢者に対する地震情報提供の方法などについても知見を得る実験を実施した。また、企業防災における緊急地震速報の利活用の実態や課題を知り、緊急地震速報の将来性について把握する必要から、ユーザーとしての企業とこれを配信する利用協議会、そしてこれらを構築する立場にある研究者の三者に対してアンケート調査を実施した。そして、こうして開発した実用的手法を利用して、手法の信頼性の確認調査、モデル企業への具体的な地震防災対策のマネジメントを行った。今後は、診断システムの普及、経営的被害に基づく対策に関する指針作りなどへとさらなる実用的展開を図る必要がある。
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