2008年の世界遺産登録以降、マラッカとジョージタウンにおける世界遺産公社(Worldb Heritage Incorporated:WH1)の設立は、両地の遺産サイト保存・管理に対応した行政側最大の動きと言える。WHIは自治体の外郭機関として、事務局、管理システムの提案、開発コントロールの提言などの機能を有するが、オーソライズ権限をもっていない。開発コントロールは、従来の都市計画・建築行政部門が対応し、世界遺産の歴史・文化解釈に基づいた指導を可能にする積極的な行政内部の変革はまだ見られない。ジョージタウンWHIの諮問業務は主に民間有識者の会合をもって、遺産サイトにおける建築申請の内容をチェックし、SAP草案の作成などを助言する。しかし、建築申請件数が多い、改築・転用への監視も対応しきれない問題が顕在している。世界遺産登録以降のこの3年間、世界遺産サイト管理に対するWHI、地元有識者の関心は、1)住民や役人の態度・意識改革、自治体レベルの制度づくり→2)住民を巻き込むまちづくり活動に対する行政の取り組み→3)遺産価値を維持・保全するための持続的な草の根活動ネットワーク構築、に移行している。行政変革を必要としながら、無形遺産であるの生活文化を継承するために、ステークホルダーを細かい配慮をもって巻き込み、より組織的、戦略的な地域活動を展開する必要性に自覚が高まっている。この変化に対応し、今年度の9月には金沢町家の保存・活用を中心とした民間活動、ネットワークの展開手法について、ジョージタウンWHIで勉強会を開いた。2月にジョージタウン民間組織代表者2名を金沢市・京都市に招き、生活文化の継承と建築の保存・活用、試行錯誤の経験をNPO、自治体と共有し、文化遺産継承のための、民間有識者から行政へ、住民への価値共有の方法を模索した。
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