研究概要 |
本研究では,景観法制定前後の景観形成基準文を分析し,その変化と背景を明らかにした.得られた知見を以下に示す. 1.分析対象の39市について国土交通省のウェブサイトに基づき,景観法制定前後の景観形成地区制度の変化の分析を行い,自主条例から景観計画への移行に伴っての景観形成地区または景観形成地区制度自体の取り扱いに地方公共団体間でバラツキがあることがわかった. 2.次に景観形成基準文が一部改正されている7市25地区を対象とし,景観形成基準の新旧対照表を作成し,都市別に景観形成基準文の改正類型(削除,表記・表現変更,追加)ごとの分析を行った結果,景観形成基準文の改正への自主条例制度の景観計画への移行による影響として,色彩に関する基準の追加が出雲市と宮崎市の事例で確認され,逆に,色彩に関する基準の追加以外の景観形成基準文改正への自主条例制度の景観計画への移行による影響は,北九州市を除く6市では確認できなかった. 3.このことから,北九州市については詳細な分析を行い,(1)建築物本体の操作要素では「敷地」「位置」「用途」「形態」と,外部空間では「駐車・駐輪場」「付属建物・工作物」の各操作要素において景観形成基準に適合させることにより,建築主に経済的負担が発生することが予想され,厳格に適用することが困難な基準は新基準で削除されていること,(2)建築物本体の操作要素である「位置」「用途」「意匠」「建築設備」と外部空間の「外構」「駐車・駐輪場」「付属建物・工作物」で表現変更された基準では,抽象的な表現から具体的な表現への変更と,「する」などの断定的な表現から「努める」など柔軟な表現への変更が多く,限定的な表現を削除し,対応の幅を広げるケースも多く見られ,自主条例に基づく強制力の弱い景観形成基準から法に基づく強制力の強い景観形成基準になったことを背景に,事前協議における助言・指導の幅を確保するための見直しが行われていることがわかった。
|