三輪神道系統の大工儀礼書「番匠十六巻一流之大事」、「日本番匠記」系本の大工由緒書「番匠記」、唯一神道系と推定される「唯一神道上棟次第」の主に三つの儀礼書・由緒書を中心に、その所在調査を全国的に行った。今年度は、高野山大学附属図書館、京都大学附属図書館、岐阜女子大学地域研究所、長崎県立歴史文化博物館などで史料調査を行った。 三輪神道系統の大工儀礼書では、長崎県立歴史文化博物館所蔵山口麻太郎史料に注目すべき史料があった。同史料は長崎県壱岐の史料で、慶長年間の肥前国名護屋の大工が伝授された巻物である。管見では最古であり、秀吉の朝鮮出兵と関係があると推察される。 高野山大学附属図書では、三輪神道系統の大工儀礼書は「大工印信一八通」が基本書であり、番匠十六巻一流之大事」は省略されたものであることが明らかになった。また真言密教の秘法を伝授する過程が記された日記から、「大工印信一八通」が修行の後半で伝授されることもわかった。 京都大学附属図書館所蔵の大工文書も三輪神道系であることを確認したが、伝来などは不詳である。 岐阜女子大学地域文化研究所が所蔵する真長寺文書は、真言宗の文書群であり、三輪神道系統の印信などが多数確認された。また同寺の別当は三輪神社であり、真言宗と三輪神道との関係が明らかとなった。 静岡県島田市の岡村建設が所蔵する大工文書(元禄8)も三輪神道系統であることが確認された。同家は智満寺のお抱え大工で京都から移住したという伝承がある。元禄8年の銘がある文書を1984年にも書写している点が特筆される。 三輪神道系棟の大工儀礼書が、近世初期から全国的に流布していたことが明らかとなった。
|