福島県奥会津地方では、一人前認められると師匠から、大工由来譚・儀礼次第などが記された巻物を伝授される。こうした番匠巻物の所在について、建築学でも断片的に報告されてきたが、特定の流派がどのように分布しているか解明するには至っていない。 本研究では、(1)番匠巻物は全国的に存在するのか。(2)奥会津地方最古の番匠巻物である1758年(宝暦9)年の銘がある「番匠十六巻一切之大事」について、その元となるテキストは何か?全国的に分布しているのかを解明することを目的とした。 現在でも、番匠巻物を伝授している地域は福島県奥会津地方のみであること、幕末頃までは全国各地で伝授されていたことが明らかとなった。唯一神道系統の文書は青森県、長野県、富山県、石川県、福井県、和歌山県、福岡県に存在することが明らかになった。 「番匠十六巻一切之大事」は奈良県桜井市の三輪神社の系譜を継ぐもので有り、三輪(御流)神道・真言密教の文書であることが、三輪神社史料・高野山大学所蔵史料から明らかとなった。 さらに三輪神道系統の文書は、秋田県、福島県、埼玉県、神奈川県、静岡県、石川県、京都府、和歌山県、兵庫県、徳島県、長崎県に存在していることが明らかとなった。また最古のものは長崎県立歴史文化博物館所蔵山口麻太郎史料の「大工口伝呪法」で、慶長16年(1611)に肥前国松浦郡名護屋の大工が伝授された巻物である。
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