研究概要 |
平成22年度は,高知市五台山に所在する竹林寺を主な事例にして研究をおこなった。本堂は,明治37年(1904)8月29日に「竹林寺本堂(文殊堂)」の名称で古社寺保存法第四條により,「内務省告示第五十七號」に「特別保護建造物ノ資格アルモノト定」められた。本堂は文明年間(1469~1487)の兵乱で毀され,その後の再建とされるが,その年代については明らかでない。文明年間を建立年代の典拠とする「募縁文書」は現存せず,そこで先行研究について検討を加えた。本堂の建立年代は文明年間を上限とし,長宗我部元親が再建したとされる永禄元年(1558)頃を下限に,室町後期であるものと結論づけた。なお『国宝・重要文化財建造物目録』は,建立年代を室町後期(1467~1572)とする。明治33年5月28日には,内務省技師の伊東忠太博士(1867~1954)が破損の実況の調査に来高していた。明治43~44年度の修理は,天沼俊一博士(1876~1947)が監督を担当し,本堂は現在地より南の石段にあったが,その北の現在地を切り開いて移築した。明治修理によって現在地に移築していたことが判明し,さらに明治修理前後の写真をみると,本堂は東向から南向となっていた。明治修理では創建以来の増改築の歴史が詳細に調査され,さらに建立当初の姿についても復原調査が実施されたものと推察される。それらの修理関係資料は,所蔵先の文部省が大正12年(1923)の関東大震災によって焼失し,明治修理の資料は現存を確認することができない。本堂は昭和6年度(1931)に屋根葺替工事が竣工し,この保存修理事業に伴って作成された竣工後の図面は,奈良文化財研究所が保管する。
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