本研究は、湘南の中でも明治中期から活発な別荘地化が進行し、今日なお、別荘地時代の歴史的遺産を色濃く継承し良好な景観を保つ大磯を対象とし、大磯町所蔵歴史的公文書を用い大磯町の別荘建築の様相を詳細に明らかにし、近代の別荘史、住宅史の中に位置づけようとするものである。 今年度は、大磯町所蔵歴史的行政文書のうち建物関連の文書の解読、分析を進めた。対象とした文書は、明治27年から昭和15年までの文書49点であり、一部時期を欠くものの、明治27年から昭和15年までの建物に関する諸届けを網羅することができた。形式は時期により相違はあるものの、届出内容は建物の新築・改築・取壊・焼失・相続・売買など広範に及び、届出人住所氏名、立地、敷地面積、建物構造規模、屋根仕上げなどが明記される。各文書を解読しデータベース化する作業を行った。 今年度は、さらにこれらの資料を用い現存する旧別荘建築の履歴の検討を開始した。一例を挙げるならば、大磯町大磯1007に現存する通称旧山口勝蔵別荘は、日本におけるツーバイフォー構法の初期の建築事例として知られる。「明治四十五年一月より建物書類綴」には、木下建平によって大正元年8月15日付で提出された同地における62.5坪瓦葺建物と1.75坪茶室に関する家屋取毀届が確認され、さらに同日付で、石綿瓦葺二階建居宅各階25坪の建物新築届も確認できる。これまで、創建年が不明だった当該建物の創建年を確定することができた。また、木下建平は明治39年9月26日に副島アイから居宅を購入したこと、後に大正7年7月には山口勝蔵に売却したこと、山口は大正9年に同地内に12.25坪の建物を新たに設置したことなどが行政文書から判明する。 今後は、現存する別荘建築の履歴の確認を継続して行うとともに、大磯における別荘建築の諸特性を明らかにしていく予定である。
|