本研究は大磯町所蔵歴史的公文書を用い大磯町の別荘建築の様相を詳細に明らかにすることを目的とするものである。今年度は、まず、『大磯のすまい』(大磯町教育委員会、平成4年)に報告された別荘建築の内現存する別荘建築の履歴を明らかにした。その結果、小林家別荘(大磯町東町・現大磯カトリック教会司祭館)は昭和2年、安田家別荘(大磯町大磯)は大正15年、木村家別荘(大磯町大磯)は大正13年、古河家別荘(大磯町東小磯)は昭和5年、梨本宮家別荘(大磯町西小磯)は昭和12年創建であることなどを明らかにした。また、部分を移築し現存とされる徳川家別荘については別荘の履歴から複数の建物からなる大規模別荘が所在したことを明らかにし、麻布本邸内に創建された後大磯別邸を経て現在熱海に移築されている南葵文庫建物について、立地や関連建物の所在を明らかにすることができた。 次いで、これら個別の別荘に関する詳細な検討と併せ、大磯の別荘建築の全体的な傾向についても検討した。建物に関する諸届の内、大磯外在住者の届出た新築、増改築、売買、取壊に限定し件数の変化を見ると、明治40年代以降大正中期にかけて新築・売買の件数は増加し大正8年には新築件数売買件数ともに最も多く、日露戦争や第一次世界大戦といった社会状況との関連が窺える。また、言うまでもなく関東大震災の影響は大きく、震災後は取壊しや新築が活発に行われた。 更に、別荘建築の地域別特性を明らかにするために、西小磯、東小磯、大磯、高麗における別荘建築の履歴を敷地履歴とともに検討すると、西小磯の場合、海浜沿いに立地する敷地規模3000坪余の大規模別荘が明治期にすでに建設されていたことなどが判明した。 今年度までの検討によって個別の別荘建築の様相はほぼ明確になった。立地や設置年代による比較検討を通して、大磯町の別荘建築の特質を総総合的に明らかにすることが今後の課題である。
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