本研究は古代東アジアにおける大型門の特徴と系譜を建築的観点から明らかにすることを目的とする。3年度目となる本年度も、昨年度に引き続き(1)各種報告書・文献などに記載されたデータの収集、(2)大型門に関する遺構の実見・調査、の2点を中心に行った。(1)では発掘調査報告書を中心に事例収集を行い、図面や立地、建物規模などの詳細について情報収集に努めた。その過程で、高句麗安鶴宮城南門などの桁行柱間配置に、日本の宮殿門(等間)・寺院門(両端間のみ狭める)とは異なる特徴を認めることができた。それは中央間から両端間にかけて柱間を徐々に狭めるところにあり、このような特徴は、中国~朝鮮半島~日本間における大型門の技術的・技法的関係を考えるうえで重要といえる。(2)では大型門の遺構について確認調査する目的から、甲府善光寺、増上寺などの近世重層大型門を実見・踏査し、遺構の詳細と立地などについての知見を得た。日本における近世重層大型門の構造的特徴のひとつは、初層天井と二層床板との間に「懐」を持つところにあると思われる。初層の屋根・垂木(桔木)はその「懐」で処理され、二層との納まりに無理がない。このような特徴は主に禅宗様の建築で認められるが、古代大型門とは異なった技術的手法と考えられる。ただ、中国最大の木造塔である仏宮寺釈迦塔(遼代)では各層の間に暗層(構造的支持層)の存在が知られており、このような技法がどこまで遡るのかはあまり知られていない。大型門を復元的に考えるにおいて、このような暗層(「懐」)の存在をどのように見るかは重要な問題と思われる。なお、本年度も昨年度と同様、研究成果をもとに日本建築学会大会(関東)などにおいて、研究発表を行った。
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