研究概要 |
原子炉・核融合炉材料の寿命予測および新規開発のためには、照射損傷の要素過程を原子レベルあるいはナノレベルから理解する必要がある。本研究では、透過型電子顕微鏡(TEM)その場観察法によって、高エネルギー粒子照射によって金属中に形成される微小欠陥の微細構造および動的挙動に関する新たな知見を得ることを目的とする。 研究代表者によるこれまでの研究によって、BCC鉄中の格子間原子の集合体である転位ループは、無応力においても熱エネルギーによってそのバーガースベクトルの方向へ一次元の拡散を行い得ることが明らかにされている(Arakawa et al., Science,318(2007)956.)。本年度は、完全転位ループの本来の移動の活性化エネルギーEを評価することを具体的な課題とした。 特に低温では、転位ループは試料中に分散した静的な溶質原子や不純物原子にトラップされ、極めて稀にしか移動を示さない。例えば、純度99.998%のBCC鉄では、熱的なデトラップが起こり得る温度(100K程度)では、一旦デトラップされた転位ループの動きは極めて速く、TEMに備えられたTVカメラ(時間分解能1/60s)では、補足することが不可能であり、拡散係数の温度依存性から髄求めることは困難であった。そこで、温度に関わりなくデトラップを起こし得る系を設定し、デトラップされた転位ループの移動が起こり得る最低温度を見つけることで、Eの値を評価することとした。 試料として、純度99.9999%のタングステンを選んだ。非熱的なデトラップは、高エネルギーの電子照射によって起こした。結果として、使用したTEM内で到達し得る最低温度16Kにおいても転位ループの移動が観察された。このことは、Eの値が少なくとも0.1eV以下であることを示す。次年度以降、電子照射による非熱的なデトラップの過程の詳細を調べる予定である。
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