研究概要 |
本申請研究の目的は、電気化学析出(めっき)膜中に存在する水素に誘発される(1)新規現象や新規相の発見および(2)その形成機構の解明、ならびに、(3)その応用に分類できる。まず、めっき反応における水素(イオン・原子・分子)の物質収支を定量的に評価し、次の3点を明らかにした。 1) ・析出界面で気体化する水素:「分子状水素」 ・膜中に共析する水素:「膜中水素」 ・膜を透過する水素:「透過水素」の3つに分類でき、それぞれ定量化できる 2) 大部分は、「分子状水素」として溶液中に放出される。 「膜中水素」+「透過水素」は、反応に関与する全水素(モル)の0.1~0.01%である。 3) 「膜中水素」の含有率は、10^<-2>~10^<-7>at%である。この値は、作製条件によって系統的に変化する場合が多い。 「膜中水素」の挙動に注目すると、「水素共析による格子変態」「水素共析に伴う拡散促進と低温再結晶」などの現象がみられる。すなわち、めっき膜は、過飽和に水素を固溶した「金属-水素」合金ととらえることができ、この点で、(高温・高水素圧下で)水素を固溶したバルク金属との接点が見出すことができる。これまで、Ni, Co, Fe, Cr, Cu, Rh, Ni-Fe, Ni-Co, Ni-P, Ni-B, Co-B, Fe-Cなどの系で検討を進め、めっき膜特有の構造や物性への水素の関与を明らかにしつつある。この中で、Coめっきにおいて「水素共析による格子変態」、CuおよびCoめっきにおいて、「拡散促進と低温再結晶」が見いだされ、さらに、他の元素においても新たな現象が見いだされつつある。実用化に関しては、Ni-Fe合金系の電析膜の磁気センサーへの応用が進みつつある。磁気的には軟質磁性を示し、磁気ヘッドや磁気センサーなどで実用化が進んでいる。一般に、軟質磁性材料は応力や歪の影響を受けやすい。(株)ホンダ技研との共同研究の結果、応力センサー(新型ステアリング用)の特性の安定性に含有水素が影響することを明らかにした。
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