研究概要 |
希少金属であるインジウムを用いた現行の導電性透明材料に変わる新規材料として,水素化による低抵抗化処理を施した酸化亜鉛(ZnO)の実用化を目指した研究を行っている。平成21年度は,ZnO表面の水素化装置を立ち上げ,これを用いて作製した水素化ZnO表面の電子構造をシンクロトロン放射光を用いた角度分解光電子分光により検証し,過去の理論研究で予想されていた水素化によるZnO表面の金属化を,金属バンドの直接観察によりはじめて実験的に証明し,金属化機構を明らかにした。さらに,ZnO表面の原子構造・原子組成の違いが金属化にどのように影響されるのかを明らかにした。 水素化によるZnO表面の金属への転移は,Zn原子とO原子の双方が表面にある(10-10)とO原子で終端された(000-1)表面でのみ確認され,Zn原子終端(0001)表面では誘起されないことが分かった。(0001)表面は,水素による原子エッチング速度が他の表面に比べて大きいという特徴をもつ。このことは,ZnO表面の半導体-金属転移の因子として表面構造の平坦性が重要であることを示す。ZnO表面の金属化は,吸着水素からZnOへ電荷が移動すると同時に,ZnOバンドの下方ベンディングが誘起されることが契機となる。この結果,表面領域に形成される電荷蓄積層内の電子が二次元電子ガスとして振舞い,部分占有の自由電子バンドを形成することが金属化の本質である。この金属化機構は,理論研究により予言されていた機構と大きく異なる。(10-10)表面での蓄積電荷量は1×10^<13>cm^<-2>,電子の有効質量は静止質量の0.16倍と見積られた。伝導電子の有効質量は電荷のモビリティを大きくする重要な因子であり,小さい有効質量は水素化酸化亜鉛の低抵抗化に大きく寄与すると言える。
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