研究概要 |
本研究は,導電性透明材料として実用に供することができる電気伝導度を有する酸化亜鉛(ZnO)を,水素化により作製するための物理的理解と技術的方策の提供を目的としている。 水素ドープによるZnO表面の導電性の向上は古くから知られていたが,シンクロトロン放射光を用いた角度分解光電子分光により,ZnO表面に形成された金属バンドを初めて直接観察することに成功し,金属化機構を明らかにした。また,この金属バンドはZn原子と0原子の双方が表面第一層にあるZnO(10-10)と0原子終端面であるZnO(000-1)で形成されたが,Zn原子終端ZnO(0001)では観測されないという表面依存性があることも明らかにした。ZnO表面の金属化は水素原子がドナーとして振舞うことが契機となり,イオン化した水素がもたらす正電荷を保障するようにZnOバンドが下方にベンディングし,表面に電荷蓄積層を形成するために生ずる。ZnO(0001)表面は水素原子に対する反応性が高く,水素による表面エッチングで原子レベルでの平坦さが失われ,これが金属バンドの形成を抑制した。以上のことから,ZnOの金属化には大きなZnOバンドの下方ベンディングと表面の平坦性が重要な因子であることが明らかになった。 表面にドープされた水素原子は光照射などの外部刺激で脱離し,表面金属性が失われてしまう。金属化表面のこのような脆弱性を克服するために,MgOによる表面保護を検討した。その結果,MgO膜で表面を被覆しても金属性が失われないこと,光照射による金属性の消失が起こらないことから,保護膜としてのMgOが有効である事を実証できた。
|