本研究では、固体高分子形燃料電池の重要な構成要素であるセパレータに着目する。セパレータ用の材料は従来カーボンであったが、燃料電池の低コスト化、ダウンサイジングの観点から、現在は金属セパレータの開発に期待がかかっている。本研究では、粒界等の欠陥が存在しないため結晶材料と比較して優れた耐食性を示すと考えられる非晶質合金を採用し、燃料電池腐食環境下で安定な優れた耐食性を示す超高耐食性非晶質合金を探索し、得られた非晶質合金をセパレータ形状の金属芯材にコーティングした全く新しいタイプの燃料電池用セパレータの創製を目的とする。 本年度はNi-Cr-P-B非晶質合金に特に着目し、まずCr量を変えながら分極曲線を調べた。その結果、Cr量が多いほど腐食電流が低下し、耐食性が向上することが分かった。 次にコーティング方法として溶射法を採用し、セパレータ形状のアルミ板にNi65Cr15P16B4非晶質合金を溶射コーティングし、金属セパレータの試作を行った。溶射法を用いて作製したNi65Cr15P16B4非晶質合金厚膜(膜厚約200ミクロン)は溶射後に加熱しながらプレスすることによりさらに緻密な膜となり、高耐食性ステンレス鋼SUS316Lよりも優れた耐食性を示すことが分かった。 さらに本研究で作製したNi65Cr15P16B4非晶質合金セパレータを組み込んだ燃料電池単セルの発電特性を評価した。その結果、従来用いられてきたカーボンセパレータと同等のI-V特性および長時間発電試験(24h)結果が得られ、本研究で研究開発を進めているNi-Cr-P-B非晶質合金が燃料電池セパレータ用材料として優れた耐食性・加工性を有することが分かった。
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