研究概要 |
本研究では、固体高分子形燃料電池の重要な構成要素であるセパレータを非晶質基合金を用いて創製することに主眼を置いた。本研究では、粒界等の欠陥が存在しないため結晶材料と比較して優れた耐食性を示すと考えられる非晶質合金を採用し、燃料電池腐食環境下で安定な優れた耐食性を示す超高耐食性非晶質合金を探索し、得られた非晶質合金をセパレータ形状の金属芯材にコーティングした全く新しいタイプの燃料電池用セパレータの創製を目的とする。 本年度はNi-Cr-P-B四元系非晶質合金に着目し、Cr量を変えてNi65Cr15P16B4,Ni60Cr20P16B4,Ni55Cr25P16B4の三種類の合金を用意した。溶射法を用いてこれら三種類の合金をセパレータ形状のアルミ板に溶射コーティングし、セパレータを作製した。まずこれらの三種類の溶射被膜の組織を調べたところ、Ni65Cr15Pl6B4はほぼ完全な非晶質状態、Ni55Cr25P16B4は完全な結晶状態、それらの中間組成であるNi60Cr20P16B4は非晶質層とナノ結晶相の混相組織となっていることが分かった。さらにこれらのセパレータを組み込んだ燃料電池単セルの発電特性を評価した。その結果、従来用いられてきたカーボンセパレータ並みの優れたI-V特性および長時間発電試験(24h)結果が得られ、その中でもNi60Cr20P16B4合金溶射被覆セパレータの場合が最も優れた発電特性を示した。次にこの理由を調べるため、各非晶質合金溶射被覆セパレータの表面をXPS装置を用いて分析した。その結果、Ni60Cr20P16B4合金の場合、最もCr2O3最表面層が高濃度に形成されていることが分かった。これによりNi-Cr-P-B合金(特にNi60Cr20P16B4合金)は耐食性に優れ、優れたセパレータとしての特性を示したと考えられる。
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