下顎骨の生体アパタイト結晶(BAp)の配向性は、近遠心方向へ優先配向をもち、成長や咀嚼にともなうin vivo応力分布の変化とともに協調的に制御されている。本年度は、ラットやビーグル犬下顎骨そして骨吸収不全を呈する遺伝子欠損マウスによる歯牙形成・放出不全の咀嚼障害もデルについて咀嚼の有無による骨量(骨密度、骨体積)、骨質(BApのc軸配向性)の変化を明らかにした。また、臨床的に人下顎骨への歯科インプラント応用を見据えて、サル下顎骨を用い、これまであまり注目されていなかった支持歯槽骨部位も含めて、咀嚼障害に起因する顎骨骨微細構造変化を結晶学的な解析によって以下の知見を得た。 1.近遠心方向のBAp配向性の変化は「咀嚼荷重排除」および「遺伝子欠損」で影響が顕著に現れた。c-src KOマウス(遺伝子欠損マウス)では破骨細胞の機能不全により歯牙形成異常、骨組織異常が認められ大理石骨症を呈しBAp配向性の変化はより複雑であった。しかし、ヤング率は骨密度に比べてBAp配向性とよい相関を示したことから、下顎骨の力学機能は骨密度に比べてBAp配向性により強く支配されていた。 2.サル下顎骨における皮質骨の骨密度、c軸配向性そしてヤング率は強い部位依存性を示し、咀嚼の影響により歯槽骨部と下顎体において、また頬側と舌側で大きく異なった。一方、骨面内でのc軸配向性は、各部位に負荷される応力方向に一致し、c軸配向性とヤング率の間で強い相関が示された。歯を直接支える歯根周りの微小領域における骨面内のc軸配向性は極めて特徴的な分布を示し、歯頸部では歯根の方向に、歯槽骨部では固有歯槽骨に沿った配向分布を示した。
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