研究概要 |
DLC膜を得るためのPBII&D(Plasma-Based Ion Implantation and Deposition)機構を追加した多元素同時スパッタリング装置(前年度に作製・基本特性評価を実施)を用い,TiNi形状記憶合金薄膜の保護膜として適切なDLC膜の成膜条件を検討した.TiNi形状記憶合金薄膜の形状回復量は約8%と大きいので,TiNi形状記憶合金薄膜との密着性及び形状回復動作を阻害しないフレキシビリティ(低弾性率,高変形能などのパラメータで表すことが可能な特性)とDLC膜の成膜条件との関連に着目した。基板にはSi及びポリイミドを評価目的によって使い分け,DLC膜の膜厚は250nmとした.Siに成膜後に割断し断面を現出して高倍率SEM観察したところ,割断時の衝撃でDLC膜がはく離していることはなく,十分な密着性があることが予測された.さらに,ポリイミド基板の場合は,DLC膜を成膜後に丸棒へ巻きつけ,DLC膜表面の割れやはく離などの損傷状況を評価した.いずれの成膜条件の場合もDLC膜のはく離は認められなかったが,DLC膜表面の割れと成膜条件に関連がある結果が得られた.すなわち,丸棒直径が同じであってもパルス状負バイアス電圧が大きいものの方が,DLC膜表面に発生した割れの個数及び総距離ともに高くなった.DLC膜のフレキシビリティと成膜時のパルス状負バイアス電圧が定性的に関連していることが明確になったので,次年度以降は弾性率などで定量的に評価する予定である.これと並行して,FIBを用いたTEM観察用試料の作製条件の探索を行い,電解研磨あるいはイオンミリングで作製した試料と同等の像質が得られる条件を明らかにした.
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