研究概要 |
本研究は,水素透過性能が高い程,水素吸収・放出に伴う体積変化による材料割れが問題となっている水素分離膜の体積変化時の歪集中や材料疲労と固溶水素濃度との関係を,アコースティック・エミッション(AE)の原波形解析で調べ,脆化機構を解明して水素透過能と耐水素脆性および耐久性を兼ね備えた膜合金の設計・評価指針を得ることを目的としている。平成22年度は,「変形・破壊過程のAEウェーブレット解析手法の確立とAE原波形解析による膜強度と構造転移特性の関係の解明」を主目標として研究を進めた。得られた結果や知見を以下に要約する。 1.SP試験の変形・破壊時に発生するAE信号は微弱で検出が困難であったため,本研究では高温水素雰囲気その場引張試験時に生じる超音波を捉える方法を選択した。そして,固溶水素濃度と延性-脆性遷移との関係を基にしてAE発生率およびピーク周波数分布の時間変化を検討して,塑性歪との対応を調べた。 2.733K,真空中の純Nbの引張試験時の公称応力-歪の変化に対応したAE信号のイベント発生箇所について,原波形の時間-周波数解析を行った結果,転位移動や固着転位の開放によるAE信号は概ね200kHzの間に分布していたが,同試料に水素圧力を負荷して,典型的な脆性破壊の様相を示す固溶水素量H/Nb=0.28とした場合,300kHz付近のより高い周波数成分を有するAE信号が発生した。これがNbの水素脆化によるき裂の発生と進展の特徴であることを捉え,脆化機構考察に向けた一つの知見が得られた。 3.高温での真空中や水素雰囲気中での純NbやNb-5mol%W合金,V系合金のき裂進展挙動や転位運動に起因した特徴的な周波数成分も評価可能であることを確証した。また,本システムにより,水素脆化によるき裂の発生と進展、および水素透過膜の健全性のセンシングが可能となった。
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