研究課題
高クロムフェライト系耐熱鋼(高クロム鋼)は、クリープ強度に優れていることから超々臨界圧火力発電プラント(USC)の主要構造材料として使用され、次世代の高効率火力発電プラント(A-USC)への適用も検討されている。しかし、600℃以上では、溶接熱影響部(HAZ)の細粒域に生じるType-IV損傷により、溶接部のクリープ強度が低下するという問題がある。研究担当者らは、ボロンと窒素の添加量を調整することにより、高クロム鋼の溶接部のクリープ強度を改善できる可能性があることを見いだした。本研究は、Type-IV損傷のメカニズムを解明するとともに,Type-IV損傷を抑制する技術を確立し、高クロム鋼の使用条件や耐久寿命の向上、次世代プラントの信頼性向上に貢献することを目的としている。平成23年度は、1.ボロンによる溶接部のクリープ強度改善のメカニズム、2.溶接部の長時間強度と組織安定性、3.HAZの細粒組織の抑制機構に関して、以下の研究を行った。1)開発した9Cr鋼および12Cr鋼の溶接継手および再現HAZ材の長時間クリープ試験を実施するとともに、クリープ破断後の組織とクリープ損傷を調査した。開発した9Cr鋼、12Cr鋼ともに、溶接継手の長時間のクリープ寿命は、既存の9Cr(Gr.91)鋼および12Cr(Gr.122)鋼の約5倍であった.2)Gr.91鋼およびGr.122鋼の溶接継手について、クリープ中のType-IV損傷の発生・成長過程とHAZ組織(粒界組織)の回復過程が大きく異なることを定量的に明らかにした。前者では、組織の回復がごく短時間(寿命の約2割)で生じ、損傷が短時間で発生、徐々に成長して破断にいたること、後者では、寿命の約5割までに動的再結晶が生じた後に急速に組織の回復が進み、損傷の成長は寿命の末期に急速に進むことを明らかにした。3)開発したボロン添加9Cr鋼、12Cr鋼の溶接継手のクリープ中断材(4000h、6000h)について、クリープ中の組織変化(粒界長さ、KAM値)とクリープ損傷(ボイドやき裂)の発生・成長のプロセスを調査した。前者では、HAZのクリープ損傷の発生・成長はボロン添加により抑制され、溶接金属部よりも損傷の生成量が少ないことがわかった。後者では、HAZにクリープ損傷の生成が観察されたが、HAZが細粒組織ではなく混粒組織であるために、クリープ損傷の合体・成長が抑制されることがわかった。これらにより溶接継手のクリープ寿命が既存鋼の約5倍に改良された。4)開発した9Cr鋼、12Cr鋼について、母材および再現HAZ材のクリープひずみデータを取得し、クリープ構成式と損傷発展式を構築した。これをもとに開発鋼の溶接継手のクリープ損傷の計算解析(FEM解析)を実施した。
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