昨年度までは、主にナノ~ミリスケールでの異なるディメンジョンにおけるマルチスケール変形・ひずみ計測手法の開発研究を重点的に行い、その結果を特許出願や学術論文に公表を行ってきた。今年度はその手法の妥当性・汎用性をさらに検証することを目的に、ナノ階層構造を持つ積層炭素繊維強化複合材料と、局所的に100%以上の変形が生じる低強度高延性材料・高強度低延性材料を積層した金属積層材料を用いて、ナノ~ミリスケールの変形挙動と破壊機構解明の検討を行った。またバイオ材料として貝殻材料を用いて変形挙動の解明を行った。その結果、積層炭素繊維複合材料の3点曲げ試験では、マクロ的に圧縮変形が作用しているにも関わらず、繊維/マトリックス界面ではマトリックス領域の局所領域において引張り変形が生じている挙動、負荷の増加に伴う繊維/マトリックス界面の剥離発生・進展挙動、それらが蓄積した巨視的な積層面での剥離挙動など、計算力学では得ることが出来ない界面剥離のクライテリオンを定量的に評価可能であることを実験的に明らかにし国際会議等で高い評価を受けた。また金属積層材料では、結晶粒内、粒界、積層界面におけるそれぞれ異なるスケールの組織構造に依存した変形挙動が存在するが、マクロでは均一変形でも、スケールを減少するに従い不均一ひずみ量が上昇する、不均一ひずみ量の総和はマクロひずみに一致することなどを明らかにした。また局所不均一挙動とマクロ変形挙動とのスケール依存性を検討ことに成功し、複雑な構造を持つ材料の変形機構解明への指針を与えることに貢献した。貝殻材料では界面有機層に存在するナノ隆起物と波状界面に起因した不均一ひずみが変形抵抗になることを明らかにした。開発したマルチスケール変形計測手法はバイオ材料をはじめ、複雑な積層構造を持つ構造材料の信頼性評価のための計測ツールとなり得るものと考える。
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