研究概要 |
本年度は(1)窒化チタン(TiN)膜上への部分安定化ジルコニア(PSZ)膜のコーティング(トップコート)および(2)PsZ/TiN二層膜の評価(3)耐摩耗性の評価,について研究を行った.今年度から,基板には主に超硬合金(WC-Co合金)を用い,実際の切削工具としての摩耗試験も行った.以上に加え関連研究としてジルコニアの酸化物イオン伝導の機構およびアルミナ膜の耐酸化性向上効果についても検討を行った. 以上の研究についてそれぞれ次の結果を得た.(1)Y-プトキシド6mol%を添加したZr-ブトオキシド混合溶液にエタノールを添加し前駆体溶液として用いた.エタノールの濃度を約80%としたときもっとも緻密な膜が生成した.またプラズマ中に酸化剤として水蒸気を噴霧することでPSZをトップコートした二層膜が作製可能になった.水蒸気導入速度の最適化を試み,導入初期は速度を遅くし,次第に速くしていくと,より緻密なPSZ膜が生成することが分かった. (2)PSZ/TiN二層膜試料について,電子顕微鏡(SEMおよびTEM)による膜を含む試料の断面観察を行った.観察の結果,基板/TiN膜界面は緻密で比較的良好に密着していること,TiN膜はほとんど酸化されることなくその上にPSZがコーティングされていること、およびPSZは高い結晶性を有して柱状に成長していること,を確認した.しかし製膜条件によってはTiN/基板界面に超硬合金基板の微量成分であるNbが偏析しているケースが認められ,この対策が必要であると考えられた. (3)PSZ/TiN二層膜試料は企業で試作段階にあるAl_2O_3/TiN二層膜の試料と同等もしくは若干上回る耐摩耗性を示すことが明らかになった.PSZのトップコート膜が切削時の摩擦熱を遮蔽し,下地のTiN膜の酸化を効果的に抑制したためと推測された.
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