本研究では、高周波スパッタリングやプラズマ支援真空蒸着法などの物理気相蒸着法(PVD)法により有機薄膜を水晶振動子上に形成し、微量濃度のガス分子の吸着性や原子状酸素などとの反応性を調べ、有機薄膜の吸着現象や反応メカニズムを解明すると共に、微量濃度の揮発性有機化合物(VOC)ガスや酸化性活性化学種などの検知用センサを開発することを目的とする。具体的には、QCM(Quarz Crystal Microbalance)法を応用し、QCMの電極上に高周波スパッタリングやプラズマ支援真空蒸着法により形成した有機薄膜を形成し、微量濃度のガス分子の吸着性や、原子状酸素など反応性、の検討を行っている。平成21年度は、ポリイミド(PI)をターゲットとした高周波スパッタリングおよびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)をターゲットとした高周波マグネトロンスパッタリングにより作成した有機薄膜をQCM上に形成し、揮発性有機溶剤(VOC)の吸着特性および原子状酸素との反応性について調べた。最初に、再現性良くVOCを検知するシステムおよび測定条件の検討を行った。その後、VOCとしてエタノール、アセトン、アセトアルデヒド、トルエン、サリチル酸メチル、さらには水を用いて、これらの吸着特性を評価した。PIをターゲットとして形成した有機薄膜では、表面の分子構造がガス吸着特性に大きな影響を与えることが分かり、また、低分子量のVOCほど吸着する分子数も多くなることが分かった。PTFEをターゲットとして形成した有機薄膜では、無極性溶媒に対しては検出感度が低く、極性溶媒の方が高い検出感度を示した。原子状酸素などの活性酸素との反応では、PTFEをターゲットとして形成した薄膜は活性酸素との反応性が高く高感度で検出が可能で、またPIをターゲットとして形成した薄膜は長時間安定して活性酸素をモニタリングできる可能性があることを見出した。
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