研究概要 |
タングステン炭化物(WC)を、金属コバルト(Co)で結合した超硬合金は、切削工具や金型として、自動車産業や電子機器産業を支えている。しかしながら、その主成分であるタングステンの価格は、その資源の90%を産出する中国の経済成長と米国発の金融恐慌が複雑に絡み合い乱高下している。経済変動に惑わされることなく、超硬合金を産業界へ安定供給するためには、主成分であるタングステンの使用量を削減しなければならない。本申請研究では、性能を維持したまま、W資源の使用量を削減した新規炭化物を作製し、超硬合金の製造に応用することを目的として実施した。 まず,溶液法によって,タングステン中Co原子レベルで強制固溶する合金粉末を作製した。すなわち、W錯体およびCo錯体を水溶液とし、蒸発乾固、熱分解、水素還元により、W格子中Co原子を強制固溶した前駆体合金粉末を作製した。次に、浸炭性のキャリア-ガスとして、Arベース、一酸化炭素ガス(CO 23%)および水素ガス(H_2 32%)からなる混合ガスを使用して、1173Kで21.6ks、前駆体合金粉末の気相炭化を行った。得られた新規炭化物を、高分解能透過電子顕微鏡を用いて観察した。前駆体合金粉末のW成分は、気相炭化により、WCに変化した。また、前駆体合金粉末のCo成分は、炭化中にクラスタリングし、直径約60nmの金属コバルトドメインとしてWC炭化物中に存在した。この金属コバルトドメインは、ナノサイズに由来する無欠陥の原子配列をとり、弾性変形や塑性変形が困難である。すなわち、金属コバルトドメインを内包するWC炭化物を作製すると、硬さや弾性率において性能を維持したまま、しかし、タングステンの使用量を削減できることが明らかとなった。本溶液法と気相炭化法による新規WC炭化物は、タングステン量を削減した超硬合金原料として有望である。
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