本研究では、超微細結晶粒組織を有する0.4%C-2%Si-1%Cr-1%Mo鋼(重量%)について、層状破壊の発生機構を明確にし、靭性向上に有効な組織因子を抽出することを目的とする。 本年度は、まず超微細繊維状結晶得粒組織が得られる加工温度条件を決定することを目的とし、鋼中に第2相粒子として分散する炭化物の種類がセメンタイトで焼戻温度によって変化しないように成分設計した0.6%C-2%Si-1%Cr鋼について、マルテンサイト組織を500℃~700℃で1時間焼戻処理した後に各焼戻温度に保持しながら溝ロール圧延機で減面率約80%の温間加工を施して得られる材料の組織と機械的特性の関係を調査した。その結果、500℃の温間加工では超微細繊維状結晶粒組織が得られるのに対し、温間加工温度が高くなるにつれて等軸状の結晶粒の割合が高くなり700℃の温間加工では超微細繊維状結晶粒組織が得られないことがわかった。フルサイズのVノッチシャルピー衝撃試験を227℃から-196℃の範囲で行い、0.6%C-2%Si-1%Cr鋼材でも0.4%C-20%Si-1%Cr-1%Mo鋼材と同様に層状破壊に起因した衝撃靭性の逆温度依存性が認められ、同じ強度レベルの通常焼入れおよび焼戻材と比べて靭性が大幅に改善されることをわかった。とくに加工温度が低くなるほど層状破壊が顕著となり、靭性の逆温度依存性もより明瞭になることも新たに明らかにした。
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