本研究では、超微細結晶粒組織を有する0.4%C-2%Si-1%Cr-1%Mo鋼(重量%)について、層状破壊の発生機構を明確にし、靭性向上に有効な組織因子を抽出することを目的とする。本年度は、前年度に引き続き、同鋼材のマルテンサイト組織を500℃で1時間焼戻処理した後に500℃に保持しながら溝ロール圧延機で0~80%までの種々の減面率(=加工ひずみ量)で温間加工を施して得られる材料の組織の形成機構を明らかにするとともに得られた組織と引張変形特性および衝撃靭性の関係を調査した。得られた材料の組織は、光学顕微鏡法、走査型電子顕微鏡法(SEM)、電子後方散乱回折法(EBSP)、X線回折法、必要に応じて透過型電子顕微鏡法(TEM)により解析した。層状破壊に影響を及ぼす組織因子としては、フェライト粒の結晶粒径および形状、炭化物粒子径、集合組織、ならびに転位密度に着目した。本年度は、とくに層状破壊発生のメカニズムを明らかにする目的で、微小試験片を用いて室温域における引張変形特性の異方性に焦点を絞った。その結果、引張変形特性の異方性は、温間加工で形成される超微細繊維状結晶粒組織の割合が高くなるほど大きくなり、材料のほぼ全域で目的とする超微細繊維状結晶粒組織が得られる80%の減面率では短軸方向の強度×延性バランスが長軸方向(圧延方向に平行)よりも大幅に低くなることが確認できた。このような引張変形特性の異方性と層状破壊発生には相関性があることが確認できた。層状破壊の発生には、特に基地結晶粒組織の短軸粒径、形状、そして、<110>//圧延方向集合組織が重要な組織因子であることが明らかとなった。
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