研究課題
平成23年度は、22年度の研究に引き続き、拡散法による線材の特性と微細組織をさらに詳細に調べた。その結果、熱処理中のMgの拡散距離が重要であることが判明した。そこで、以下に述べる二つの方法で、Mg原子の拡散距離の減少を試みた。(1)多芯線材の組織と特性これまでの拡散法で7芯の線材を作製し、光学顕微鏡、走査電子顕微鏡ならびに透過電子顕微鏡で微細組織を調べた。その結果、反応生成物の充填率はほぼ100%と非常に高い充填率が得られた。しかしながら未反応のボロンがかなり多量に見られ、さらに未反応ボロンの周囲には、Mgの乏しいMgB4がかなり厚く生成しているのが判った。超伝導体であるMgB2の充填率を評価したところ、ほぼ80%程度であることが判明した。すなわち20%程度が未反応ボロンならびにMgB4である。このように未反応ボロンならびにMgB4が多量に存在している理由は、拡散法では、Mgの拡散距離がPIT法と比べてはるかに長いために十分なMgがボロンに供給されないためと考えられる。これらの未反応ボロンならびにMgB4の量を減少させるには、Mgの拡散距離を減少させることが有効と考えられるが、芯数を増やしてフィラメントの大きさを小さくすれば、Mgの拡散距離を減少させることができる。そこで次に芯数を増やした37芯線材を作製した。この37芯線材の断面を観察したところ、未反応ボロンやMgB4は減っているものの、フィラメントの形状がやや不規則であることがわかり、線材加工法の改善が必要であることが判った。4.2Kにおいて臨界電流密度Jcを測定したところ、37芯線材のJcは単芯線材のJcよりも高いものの、7芯線材よりもやや低いことが判った。これは上述したフィラメントの不規則性によると考えられる。(2)ボロン層におけるMg粉末添加拡散法におけるMgの拡散距離を減少させる別の方法として、ボロン層(ボロン粉末)にMg粉末を分散させることが考えられる。そこで、ボロン層に3-9原子%のMg粉末を添加した単芯線材を作製した。光学顕微鏡ならびに走査電子顕微鏡により組織を観察したところ、Mg粉末を添加した線材では、Mg粉末を添加しない線材に比べて明らかに反応層における未反応ボロンならびにMgB4の量が減少していた。Jcを測定したところ、Mg添加試料は無添加試料に比べて高いJcを示し、最高のJcは6原子%のMg添加のときに得られることが判った。ボロン層におけるMg粉末の添加は二つの効果があり、一つはMgの拡散距離を減少させることで、これはJcの向上に寄与する。もう一方はMg粉末を添加することで反応層の空隙率が高まることで、これはJcを低下させる。この二つの効果の兼ね合いでJcが決定することと考えられる。
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JOURNAL OF THE PHYSICAL SOCIETY OF JAPAN
巻: 81巻 1号 ページ: "011010-1"-"011010-11"
10.1143/JPSJ.81.011010