研究概要 |
昨年度行ったイオンビームスパッタ蒸着により作成したβ-FeSi_2単結晶薄膜についての検討に引き続き、本年度は、溶液成長法により作成したβ-FeSi_2単結晶について実験を行った。まず、作成したβ-FeSi_2単結晶の自然酸化膜の化学状態及び膜厚を調べ、高真空中でのアニール処理による構造変化、さらに、単結晶上にホモエピタキシャル成長させた膜の構造について調べた。測定は、高エネルギー加速器研究機構の放射光ビームラインBL-13C及び27Aにて、X線光電子分光(XPS)及びX線吸収分光(XAS)により行った。作成したそれぞれの試料の化学状態を調べるために、XPSによりFe 2p及びSi ls,2pスペクトルを取得するとともにXASによりSi K吸収端及びFe L吸収端のスペクトルを取得した。X線の励起エネルギーを254~970 eVの間で変化させて測定したSi 2p XPSスペクトルの結果とシミュレーション計算により深さ方向の化学状態について解析を行ったところ、β-FeSi_2単結晶の最表面には、自然酸化膜として0.8nm程度のSiO_2層が形成され、その内部に0.2nm程度のSiO_<2-x>層が形成されることがわかった。次に、高真空中でのアニール処理において、高温(900℃)でアニールした場合には、FeSi構造がβ-FeSi_2構造の表面近傍に生成してくることがXASスペクトルの結果から示唆された。また、ホモエピタキシャル成長膜について測定を行ったところ、700~800℃の基板温度で成長させた膜は、ほぼβ-FeSi_2構造であるのに対し、900℃の基板温度で成長させた膜では、FeSi構造が混在することが示唆された。以上の結果より、優れた清浄表面を得るためのアニール処理や均一なホモエピタキシャル成長膜を得るためには、処理温度の制御が非常に重要であることが示された。
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