医薬など有機化合物の晶析(結晶生成)では、結晶核形成を制御することが、結晶多形や粒子径分布などの所望の特性を持った結晶を製造する上で重要である。しかし、現在の工業生産現場で核形成が制御されているとは言えない。そこで、本研究では、溶液中の会合体が結晶核形成に重大な影響を及ぼしているという観点から、結晶核形成メカニズムについて検討した。また、ナノ医薬結晶を製造する目的で、微結晶製造のための新規な晶析法を検討した。 1. まず、0.003℃の誤差で温度制御することによって溶液の熱対流速度を2μm/sと極度に抑制できる結晶核形成観察装置を作成し、それを用いて核形成のメカニズム解明に関する研究を行った。その結果、自発的な核形成が起こりにくい過飽和溶液であっても、そこに結晶を接触させることによって結晶とは離れた位置で結晶核が形成されることを見出した。溶液に接触した結晶の成長が、溶質分子の拡散移動を促し、そのような分子の動きが、溶液中に形成されている会合体の構造転移を誘発して結晶とは離れた位置で核が形成されたと考えられ、いままで知られていなかった核形成のメカニズムを明らかにすることができた。これについては、さらに詳細な検討を行う計画である。 2. 核形成のタイミングを揃えて、かつ微結晶を製造する目的で、冷却前の未飽和溶液にマイクロ波を照射する実験を行った結果、ミクロン結晶が得られた。NMRの緩和時間測定の結果、マイクロ波照射は、溶質の会合状態を変化させ、核形成速度を速めたことが示唆された。 3. 貧溶媒晶析で溶液と貧溶媒を混合するプロセスにマイクロスタティックミキサーを用い、L-グルタミン酸の100-200nmのナノ結晶を析出させることに成功した。 4. 本研究で開発したmL-連続晶析装置を用いて、粒径分布が揃った微結晶を製造することができた。
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