近年、難溶性医薬が増えている。それらのバイオアベイラビリティを上げるために、ナノ結晶の製造が期待されているが、成功しているは言えない。その最大の理由は、有機結晶の核発生メカニズムが充分には解明できていないことにある。溶液における分子間相互作用の重要性は、様々な分野で取り扱われてきたが、結晶核発生との関係では国内外ともに検討されてこなかった。そこで、本研究では、溶液中の会合体が結晶核形成に重大な役割をはたしているという観点から、結晶核形成について検討してきた。今年度はとくに、既に存在している結晶(例えば種晶)が核発生に及ぼす影響に焦点を当てた。また、ナノ医薬結晶を製造する目的で、mL-連続晶析装置による結晶製造についても検討した結果についても報告する 1.平成22年度の成果として、「自発的な核形成が起こりにくい過飽和溶液であっても、そこに結晶(種晶)を添加すると、結晶とは離れた位置で結晶核が形成されること、および溶液に接触した結晶の成長が溶質分子の拡散移動を促し、その分子の動きが、溶液中に形成されている会合体の構造転移を誘発ことによって結晶とは離れた位置で核が形成されたと考えられること」を報告した。この理解が正しいならば、種晶が無くても溶質分子のある方向への拡散が起こりさえすれば、核発生が誘導されることになる。そこで、2つのガラスセルが透析膜で隔てられた静置晶析装置を造り、片方のセルに過飽和溶液を置いて、そこから膜を通して他方(飽和溶液)に溶質が拡散する実験を行ったところ、30分以内に再現性良く過飽和溶液から結晶が析出した。一方、両セルに同じ過飽和溶液を置いた場合は、5時間経過しても核は発生しなかった。これにより、拡散が導く新しい2次核発生のメカニズムが明らかになった。 2.本研究で開発したmL-連続晶析装置を用いて、溶媒媒介転移を抑制して数ミクロンサイズの溶解度が高い不安定多形結晶の製造が可能であることを明らかにした。しかし、ナノサイズではなかった。
|