研究概要 |
組換えタンパク質生産や遺伝子治療の分野で外来遺伝子の導入に用いられているウイルスベクターにおいて,感染力価(タイター)は結果に直結する最も重要な因子の一つであるため,これを正しく測定することが必要である。一般に,ウイルスタイターは段階希釈溶液中のウイルスの"存在"を検出することによって求めることができるが,これまでの検出原理は簡便性や迅速性,コストの点で大きな問題がある。本研究では,細胞の表面のウイルス結合レセプターがウイルス感染によって急激に減少することに着目し,この減少を測定することによってウイルスの"存在"を簡便かつ迅速に検出することができる酵素展示バキュロウイルスを構築してウイルスタイター測定に応用することを目的としている。 酵素にはグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)を用い,そのウイルス表面展示のため,昆虫細胞表面ウイルス結合レセプターとの結合に関与するバキュロウイルス表層膜タンパク質GP64を利用した。このGP64はエンベロープ膜内に貫通しているC末側ドメインと膜表面に突き出ているN末側ドメインから構成されることから,GP64遺伝子(gp64)とシグナル配列(ss)の間にGSTの遺伝子を挿入したcDNAをポリヒドリンプロモーター(Ppolh)下流に導入したプラスミド(pFastBac-1-GST-GP64)を作成した。さらに,Bac to Bacシステムを利用したバクミドとの部位特異的トランスポジションによってGST展示バキュロウイルスを構築した。得られたウイルスはGST活性を有していたものの,そのタイターは極めて低い値であった。これは,Ppolhは強力なプロモーターであるものの感染後期に働くため,感染早期から出芽し始めるバキュロウイルスの生成には同期しなかったためと考えられる。
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