打上後、すぐに月へ向かった初期の月探査機と異なり、近年の月探査機の多くは、地球を廻る長楕円軌道を数周回した後に月に到る「フェージング軌道」を採用している。フェージング軌道を用いる主たる理由は、充分な打上ウィンドウを確保できるという運用上のメリットがあるためである。その半面、月へ直接向かうダイレクト軌道と比較した場合、飛行経路が長くなり軌道制御の回数も増えるため、軌道設計が複雑になる。 本研究では、まず体系的なフェージング軌道の設計プロセスを確立する。解空間の構造を解明し、それを考慮したモデルを用いて適切な初期値を与え、所望の解に確実に収束させるという手順を確立する。続いて、それを用いてフェージング軌道を幅広く設計・分析し軌道特性を解明する。様々な設計パラメータを変更した場合の、軌道設計結果への影響の解析(すなわち感度解析)により、フェージング軌道の特性を明らかにする。これにより、より優れたフェージング軌道を、より円滑に設計することが可能になる。 本研究は「設計プロセスの確立」「軌道特性の解明」の2段階から構成され、それぞれは、検討に使用するプログラムの開発と、検討本体、および成果発表に区分される。3年間の研究期間の3年目にあたる本年度は、「設計プロセスの確立」の検討を継続し、「軌道特性の解明」の検討に着手した。 フェージング軌道の設計プロセスを「軌道遷移問題」と「位相調整問題」に分割することにより体系的に取り扱えることを見出した。前者については、従来の軌道設計手法を適用した検討を進め、後者についてはチャート「TMダイアグラム」を新たに開発し、本問題に適用可能であることを示した。すなわち、「TMダイアグラム」を用いることにより解空間の構造を明らかにできること、軌道の最適性を保持しながら位相を調整することが可能であることを示し、具体例を用いてその有効性を示した。成果は、国際学会28th International Symposium on Space Technology and Science、22nd AAS Space Flight Mechanics Meeting等で発表し、関連研究者との議論を通して、本研究の内容・有効性について重要な知見が得られた。 また、この設計プロセスを元に設計したフェージング軌道について、その軌道特性の検討に着手した。
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