使用済み核燃料再処理工程で発生する高レベル放射性廃棄物(HLW)は、ガラス固化体にしたのち深地層中に保管される。本研究では、現在使用されているホウケイ酸塩系ガラスとは組成が異なるリン酸塩系において、多量の廃棄物を取り込めることができ、しかも、化学的安定性、耐久性に優れ、水に対する浸出率が小さく、廃棄物中のリン酸成分含有量の制限を受けることがなく、さらにNa溶出量が極めて低い、などの特徴を併せ持つ放射性廃棄物固化処理用ガラスの開発に成功した。ガラス組成は、組成-物性間に非線形性(リン酸異常現象)を示し、anomalousタイプのリン酸塩ガラスに分類されているリン酸マグネシウム系である。今年度は、廃棄物ガラス固化体の浸出挙動を調べるため、異なる浸漬液、異なるガラスの組成で浸出試験を行った。浸漬液に水と酸を用いた場合は浸出量からガラスの溶解挙動を調べることができたが、アルカリを用いた場合はガラスの溶解とともに析出物の生成が多く見られたため浸出量からガラスの溶解挙動を調べることはできなかった。母ガラスでは、浸漬液に水と酸どちらを用いてもガラスの溶解は水和反応が支配的となっていた。廃棄物ガラス固化体では浸漬液に水を用いた場合、廃棄物元素Mによる結合力の強い金属元素架橋構造のP-O-M結合によって、ガラスの溶解はP-O-P結合が開裂する加水分解反応が支配的となった。しかし、浸漬液に酸を用いると水和反応が促進され水では切断することのできなかったP-O-M結合が切断され水和反応が支配的なガラスの溶解となった。以上のことから、ガラスの溶解はガラス表面からガラス構造中の結合を切断することで生じ、その際、水和反応と加水分解反応どちらの反応が支配的にガラスの溶解を進めるかは、浸漬液のpHや温度とガラス構造中の金属元素架橋構造、P-O-P結合の結合力に関係すると考えられる。
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