研究概要 |
格子間原子集合体の一次元(1D)運動過程は高エネルギー粒子照射された材料の組織変化に多大な影響を与えている可能性が指摘されているが,その詳細は解明されていない。本研究課題では、超高圧電子顕微鏡による電子照射下その場観察法と計算機シミュレーションを相補的に組み合わせることにより、実用鋼を含む種々の合金における1D運動の基礎過程を解明することを目的としている。今年度は、分子静力学・動力学法に基づいて、鉄-銅合金における1D運動の計算機シミュレーションを実施した。この結果に基づき、室温付近での電子照射により1D運動が引き起こされる機構を以下のように提案した。 1)高濃度合金においても、格子間原子集合体のID運動は本来非常に高い移動度をもつ。しかしその一方で、2)ランダム合金では溶質原子のミクロ分布のゆらぎにより、格子間原子集合体の形成エネルギーは1D運動軌道上で変動しており、通常はその安定位置で静止している。3)電子照射下では原子のはじき出しと点欠陥の回復に伴い、溶質原子のミキシングが生じる。すなわち溶質原子はあるランダムな分布からこれと等価な別のランダムな分布へ絶えず変化している。これに伴い格子簡原子集合体め安定位置も変化し、1D運動により新たな安定位置へ移動する。 この機構による1D運動は分子動力学法によるモデル計算でも再現され、1D運動の頻度と距離は室温付近で実験的に観察される1D運動ともよく一致した。これらは実用合金における1D運動挙動を理解する上で重要な知見である。
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