金属酸化に起因する水素侵入機構解明を目的として、原子炉等の冷却管材料の高温高圧重水環境下での酸化速度、重水素侵入量を測定した。本研究を実施するために、金属酸化用の高温水用オートクレーブ(最高使用温度:300℃、最大圧力:20MPa、有効容積:200ml)を整備し、また、実験用の試験体(SS304と低放射化フェライト/マルテンサイト鋼(F82H)の円板状試料)を製作した。実験では、製作したオートクレーブ中で、300℃の重水中で試験体を9時間から6日間保持し、試料表面に酸化膜を生成させた。酸化処理した試験体中の重水素の分布及び存在量をグロー放電発光分析法(GD-OES)及び昇温脱離法(TDS)で測定した。その結果、膜成長速度は、F82Hで約100nm/日、SS304で約50nm/日であり、高温水中ではF82Hの方がSS304よりも酸化しやすいことが確認できた。一方、酸化に伴う材料中への重水素侵入に関しては、F82H、SS304共に酸化に起因する重水素侵入が確認され、重水素は主として酸化相-金属界面に存在していることが確認された。これにより、材料中に侵入する重水素は酸化反応起因であることが示唆された。酸化膜生成と重水素侵入量の相関に関しては、保持時間の増加と共に試料への重水素滞留量は増加し、81時間を超えたところで飽和に近くなる結果となった。TDSの結果からは、SS304からの重水素放出が約500℃以上の高温で起こるのに対し、F82Hの場合には約150℃の低温領域でのみ起こることが観察された。F82Hからの放出温度が低い結果は、TDS前の真空排気中に試料から重水素が漏れ出る可能性を示唆しており、実際、試料中の重水素残留量がSS304に比べF82Hは、はるかに小さい結果であった。
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