金属酸化に起因する水素侵入機構解明を目的として、原子炉等の冷却管材料の高温高圧重水環境下での酸化速度、重水素侵入量を測定した。前年度はSS304や低放射化フェライト/マルテンサイト鋼(F82H)の高温重水による酸化に伴い重水素が金属内に取り込まれることを確認した。本年度は上記材料に酸化防止のための表面被膜(金メッキ)を施工した場合の重水素取り込み量等への影響を調べた。 酸化実験の試料として、昨年度と同様にSS304とF82Hを使用した。試料形状は直径12-15mm、厚さ2mmの円板状試料であり、今回はこれら試料表面に10μm厚の金メッキを施工した試料を用意した。昨年度整備した高温水用オートクレープで573Kの重水中で81時間保持し、SS304とF82H中に取り込まれた重水素の測定と、表面元素分布をそれぞれ昇温脱離法(TDS)及びグロー放電発光分析法(GD-OES)により行い、酸化防止用の金メッキの重水素取り込みに及ぼす影響を評価した。実験の結果、以下のことが明らかになった。SS304に関しては、重水素取り込み量は明らかに金メッキ施工試料の方が少ないが、取り込み自体が無くなることもないことが分かった(TDS実験結果)。金メッキ相に鉄と酸素の存在が確認され(GD-OES結果)、高温水に浸漬中に金メッキ中を鉄が拡散し、表面で酸化していることを示唆している。観察された重水素取り込みもこの酸化に起因しているものと推測された。本結果はSS304表への金メッキ等の表面被膜施工は、改善の余地はあるものの、ある程度酸化を防止し、材料中への重水素取り込みを抑制できることが分かった。一方、F82Hに関しては、重水素取り込み量は金メッキ施工試料の方が多く、TDS実験後には金メッキの溶融が認められた。本研究で得られた成果は原子力学会で報告を行うとともに本研究に関する情報収集を行った。
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